TMB DANCER’S SHOW CASE vol.1開催を記念して、 連続インタビュー企画を実施!
大好評企画の10回目となる今回は、クリエイション・ユニットblankから市橋 万樹が登場。バレエ団として初の試みとなる今回の公演。振付家として参加する市橋に今回の公演への想いを伺いました。
このインタビューシリーズでは、舞台裏の裏話や振付家・アーティストの情熱に迫ります。
クリエイション・ユニット blankの成り立ち。ユニットで創作に挑む理由とは。
──まずは、blankについて教えてください。
2020年にスタートしたクリエイション・ユニットです。バレエ団同期の石井潤太郎と二人でやっています。結成当初に上演を目指していた作品は、公演そのものがコロナ禍で流れてしまったのですが、その後僕の地元の名古屋で舞台をやろうという動きになり、2020年7月末に「joints」という公演を企画、そこでblankとして初めて作品を上演しました。ソーシャルディスタンスに配慮してバレエの舞台を実施し、同時にオンライン配信したのは、国内ではおそらく僕らの公演が二例目くらいだったかと思います。
──なぜ、ユニットで創作に取り組むことにしたのですか。
よく聞かれることなのですが、僕としては、むしろ「何でそうしないのかな」という思いがあります。もちろん一人でやる良さもあるけれど、映画でも服でも、二人とか複数のアーティストがつくっているのに、バレエはなぜか振付家が一人で創作している。
──確かに、一人の振付家が振付と演出を手がけることが多いですね。blankでは二人の中で役割分担があるのですか。
もちろん、あります。基本的に振りは僕が出して、潤太郎が演出を手がけています。僕はどちらかというと「0から1」にするタイプ。作品のコンセプトを出すのは僕ですが、それを膨らませる役割を潤太郎が担っています。
──最初に振付に興味を持つようになったのは、何かきっかけがあったのですか。
子供の頃から、何かをつくることが好きだったんですね。国内のいろんな振付家の方の作品を観る機会もあったので、いろいろと刺激を受けてもいて、次第に自分もつくってみたいなと思うようになっていたんです。
もともと、何をおいてもダンサーになりたい、と強く思っていたわけではなくて、とにかく何か表現者になりたいと思っていました。ダンサーとして活動することも表現ですし、振付も表現。指導者としての仕事も、自分の言うことが相手に反映されるわけですから、表現の一つですよね。僕の中にはダンサー、振付家、教師といった枠組みはなくて、どれも、表現に繋がるものだと思っているんです。
今井智也と牧村直紀への振付けプロセスとアプローチとは。
──今回は、今井智也と牧村直紀にそれぞれソロの作品を振付けています。どんな作品になるのでしょうか。
今井智也さんの作品については、彼自身のことを踊りに反映させていこうと思っていました。今井さんとはプライベートでも仲良くさせてもらっているのですが、僕が思うに、彼はどこか影があるダンサー。そのネガティブなところに、すごく色気を感じます。そんな今井さんの性格を活かした作品を創るべく、リハーサルを重ねてきました。
牧村さんも今井さんと似ているところがあるんですよね。踊りのタイプは違うけれど、どこか神経質なところもあったりして。でも同時に、牧村さんは振付ける側の主張をピックアップして表現する能力がすごく高い。牧村さんの作品については、ご自身のキャラクターにプラスアルファとして、もっと僕らの主張、僕らの世界観を表現してもらう方向でいこうという話になりました。
今回はいつもの普通の舞台とは違うので、いずれも映像ありきの作品になります。振りだけでなく、全体を観て感じていただけたらなって思います。
──振付をする時は、まずは音楽から決めていくのでしょうか。
これがまた僕らの特殊なところなのですが(笑)、作品の方向性、イメージはこうだから、こういう感じでいきたいと僕が提示して、それに対して潤太郎が音楽を用意する、というやり方なんです。振付家は大体、自分の好きな曲とか馴染みのある曲を使うことが多いと思うのですが、僕の場合はそれが初めて聞く曲だったりすることも!
その後、僕が実際に動いてみて、それに対して潤太郎が「いや、そうじゃない、こういう動きじゃない」、「もっとこうしたほうがいい」と提案してくれて、さらに修正を重ねて──と細かいやりとりを経て、ある程度出来上がった状態でダンサーとのリハーサルに入ります。二人でやっている分、お互いに納得しなければ先に進めることができません。独特の創り方ですよね。時間はすごくかかります。
──意見の衝突から喧嘩になることはないのですか。
ないです(笑)! 僕らはダンサーたちに感情を表現してもらう仕事をしているのだから、僕らが感情的になっては意味がないです。
──作品のアイデア、振付のヒントはどんなところからきているのですか。
見ること、感じることはすごく大事にしています。街をぶらぶら歩いたり、それも、あえていつもと違う行き方をしたり、細かいことですが、電車も毎回同じ車両に乗らないとか、日常生活でもいろいろやっています。もちろん、舞台も積極的に観ています。
──今回の公演では、多ジャンルにわたるさまざまな振付家の方が参加されますね。
バレエは芸術ですから、どうしても敷居は高くなってしまうもの。でも、今回の公演がその入り口になればいいなと思います。なので、本当に肩肘張らず、深刻に考えず、見たものをそのまま感じていただきたいと思っていますし、それで面白いと思っていただいて、次のバレエの公演に足を運んでいただけたら嬉しいですね。
──谷桃子バレエ団の魅力を、どんなところに感じていますか。
歴史があるだけに、いろんな情報を持っています。これまで関わってきた人が多い分、その時々のバレエ界の状況を見てきた人がいる。本当に素晴らしいことだと思います。上の世代の方々は本当に大変な思いをされてきましたし、いい時代も厳しい時代もあった。そういった方々とお話をすることで、すごい発見があるんです。
いま僕らがやっていることも歴史の一部。10年後、バレエ団がどうなっているかはわかりませんが、その時、「当時はこんなことがあったよ」と伝えることは、それはまた次の世代にとっての学びになるのかなって思います。