TMB DANCER’S SHOW CASE vol.1開催を記念して、 連続インタビュー企画を実施!
大好評企画の7回目となる今回は、振付家の前田清実さんが登場。バレエ団として初の試みとなる今回の公演。振付家として参加する前田さんに今回の公演への想いを伺いました。
このインタビューシリーズでは、舞台裏の裏話や振付家・アーティストの情熱に迫ります。
第8弾も近日公開予定! 楽しみにお待ちください。
振付家・前田清実から見る『バレエ』。
──ミュージカルやストレートプレイ、またご自身が主宰されるカンパニーの公演など、あまたの舞台で振付を手がけていらっしゃいますが、今回の谷桃子バレエ団からのオファーについてはどう感じられましたか。
面白い!と思いました。髙部尚子さん──ひさちゃんと呼んでいますが、彼女からお話をいただいて、実はほぼ即答でお受けしたんです。バレエダンサーには、すごく興味があります。私たちには敵わないものを持っていますから。
私もカンパニー公演ではコンテンポラリー寄りの作品を上演しているので、当初はそういった作品の依頼かなと思っていたら、ひさちゃんは「ジャズで」と! 彼らがジャズダンスや他のジャンルの踊りに挑戦するのはとても勇気のいることですよね。その勇気と柔軟な発想に、大いに賛同したのです。
──バレエについてはどう捉えていらっしゃいますか。
「ダンスの基礎はバレエ」です。私たちが携わっているシアターダンスは、バレエのテクニックがないと踊れません。だからこそのフレッド・アステアやジーン・ケリーだと思います。もちろん、バレエを観るのも大好きです。舞台を観て力をもらったこともありますし、悔しい思いもしましたが、結局はバレエができないと“肉体の語り部”にはなれないと感じました。 その後、バレエの舞台は見逃してしまうことが増えてしまいましたが、2017年にロンドン発のミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』を日本で上演するということになった時、振付補として参加したんです。
──イギリスの炭鉱の町に住む少年が、バレエに目覚めて夢を追い求めるという物語ですね。
ロンドンで観て好きになった作品でしたが、海外のスタッフと一緒にあの舞台をつくっていく機会をいただいて、それでいま一度、バレエ熱に火がついたんです(笑)。
YouTubeでも話題となったオーディション。その舞台裏に迫る。
──今回、オーディションで初めてダンサーたちの姿をご覧になって、どんな印象をお持ちになりましたか。
皆さん、基本の力はすごくある一方で、アイソレーション、たとえばボディに対して肩だけ動かすといった分離運動が苦手な人が多いように感じました。が、それも決して嫌がっていないという印象で、好感度はとても高かったです。挑戦したり、葛藤したりしている人の姿を見るのは大好きですから、オーディションはとても楽しく拝見しました。
──ソロの作品を踊るダンサーとして、森岡恋を選ばれましたね。
恋さんは、バーレッスンの段階から、口角がちょっと上がっていたんです。別に顔で踊るわけではないけれど、バレエが大好きなんだ、という雰囲気が目にとまりました。バーが終わってセンターになっても、ごくごくシンプルな基本の動きを心から楽しんでやっている。これはちょっと感動しますよね!
──森岡が踊るのは、ミュージカル『ナイン』の「ビー・イタリアン」というナンバーですが、どのような作品になるのでしょうか。
恋さんはとても可憐な雰囲気の方ですが、この曲を歌うサラギーナという役柄は、もう少し年上で、ぐっと押しの強い感じの女性。恋さんがサラギーナを演じたらどうなるかなという興味がありますね。振付をする場合、もちろん、ダンサーの個性に合わせて当て振りをすることもありますが、逆に、この人は普段、こういうラインは絶対出さないだろう、というものをあえて振付けることもあります。そうすると、その人に新しい引き出しができますよね。
──田村幸弘、松尾力滝、田渕玲央奈が踊るのは「スチーム・ヒート」という曲です。
これもミュージカルのナンバーです。スチームというのは蒸気とか熱という意味合いで、それくらい君を愛しているよというラブソング。ですが実は、労働組合の集会で皆を引き込んで賛同を訴える曲なんです。「こっちに来いよ!」という感じでやってほしいと言っています。田村くん、松尾くん、田渕くんも、やはりオーディションで光るものを感じました。彼らも最初は一杯一杯でしたが、どんどん良くなっています。
──6人の女性ダンサーによるオープニングは、ダブルキャストですね。
オーディションでは、皆さん本当にキラキラしていて、「挑戦する!」という感じでしたから、本当はトリプルキャストにして候補者全員に踊ってもらいたいとも考えました。でも現場でのタイムテーブルを考慮すると難しいということがわかって、厳しい目で、12人を選ばせてもらいました。
バレエダンサーへの振付けと今回の公演への期待
──バレエダンサーたちに振付けを渡される時は、バレエダンサーのために配慮した動きを用意されるのでしょうか。
まずは、配慮しない。いつも私が振付をしている人たちに対してと、何も変わりません。リハーサルをしながら、「やっぱりここにはバレエならではの形を入れよう」「ここの回転はダブルにしよう」とチェンジしていきます。オープニングの彼女たちも、実際に踊ってもらったらすごくカッコいいところがある。そういう部分を増やしたり、バレエの技を入れたり、臨機応変にやっています。より高みを目指したいので、全然遠慮はしていません。
オープニングでは、短いけれどそれぞれのソロの部分もあり、その振付はそれぞれに任せました。もちろん、いろいろとサジェスチョンはしましたが、得意なものを詰め込んでいってもらったら、ぐんと良くなってきましたね。
──ジャズダンスを踊る中で、バレエダンサーにしかできないものも出てくるわけですね。
ありますね。カンパニーのメンバーたちには、今回の公演を観てもらって、ギャフンと言わせたいんです(笑)。ダンサーは、何でも踊れたほうが私は好きです。バレエダンサーが踊るコンテンポラリーも大好きですし、ジャズもですね。とくにアステアに代表されるシアターダンスは、本来、バレエダンサーが踊れるものと信じていて、私たちのようにジャズダンスから初めて目指すより、バレエの人たちが習得したほうが素晴らしいものになる。海外の舞台を観にいくとそれがわかるんです。ミーシャ(ミハイル・バリシニコフ)がライザ・ミネリと踊っていますが、ミーシャはバレエダンサーならではの、ちょっと違った独特のニュアンスがあって、そこが実にカッコいい! アダム・クーパーも然り。優れたダンサーというのは、そういった感性を持っているんだなと感じます。
──では、今回の公演に期待することを教えてください。
参加する振付家の顔ぶれを見ただけで、こんなことが実現するんだ!と私もウキウキしています。今回集まった振付家たちは皆本当に素晴らしい方たちです。それぞれの振付家の個性を、ダンサーたちがこう料理したのか、というところも、ぜひ見ていただきたいですね。